“外”から“内”に向かう「道行き」の回廊途中の空間

室内デザイン

辻健次郎

これほどよい土地に何をつくるか考えるところから、
すべては始まった

辻健次郎
建築家
アーキテクトディザイン一級建築士事務所 代表

オパス有栖川のように、トータルでこれほどよい条件を満たしている土地は滅多にありません。目と鼻の先に有栖川宮記念公園という変わらない風景がある一方で、建ったばかりの六本木ヒルズも近くに見える。そんな場所に何をつくるか考えるところから、すべては始まりました。僕は事業者側から関わっていましたが、ここにふさわしいマンションをつくろうと決まってからも、紆余曲折ありました。最初の設計ではありきたりだということになり、枡野俊明さんを新たに迎え、吉井信幸さんと3人で模索していきました。いいチームでしたね。夢があって、それをみなが同じように理解していた。

実はアプローチの長い「道行き」は、最初の設計にはありませんでした。このチームになってから、建物を削ってつくろうと決めたのです。もちろん調整は大変でしたが、敷地の目の前に交差点があって、車の騒音が入ってくるのを防ぐためにも道行きは重要でした。エントランスホールを入ってからも、地窓や中庭など、エレベーターまでの歩みも変化に富んでいます。これほどゆとりのある道行きは、戸建の邸宅でもなかなかつくれません。マンションのメリットは、住まう方みんなが共用部分を自分のものにできることです。そういう意味では、オパス有栖川は戸建ての邸宅以上に贅沢かもしれません。

共用部分を通って最後に到着するのが、それぞれの住戸です。これらは普通のマンションとは逆の発想で設計しています。通常は外枠から計算して何LDKにするか決めてから内部を設計します。しかし、オパス有栖川は、戸建てのように内部から設計していきました。人をお迎えする玄関はゆったりと広く。長い廊下を抜けると、40畳ほどのリビング・ダイニングがある。パーティーを開くこともできるスケールです。主寝室も、ベッドを置いてもまだまだ空間が広がっています。このように、理想的なスケールを実現していった結果、この広さの住戸になりました。もはやマンションではなく、1戸1戸が戸建てだと思っています。そして最もこだわったのがテラスです。有栖川宮記念公園の緑を望む気持ちのいいテラスが、この住まいには欠かせませんでした。プライベート・リビングのように、あるいは空の庭のように楽しめる。建物の内にいながら外を感じられる設計は、共用部分の内と外が融合したデザインともつながっています。

オパス有栖川は、長年住宅を設計してきた僕の仕事の集大成でもありました。もとの敷地が広いし、つくりもしっかりしているので、後の世代が手入れしやすいだろうという自信があります。今回のリノベーションで、土地の歴史が持つ価値観が受け継がれていくのであれば、設計者冥利につきますね。建物や庭とともに、暮らす人の心も、歳月を重ねるごとに豊かになっていく未来を想像しています。

「オパス有栖川」誕生の時、
未来を見据える眼差しで臨んだ3人の匠。
その思想を引き継ぎ、建築の記憶を重んじながら
慈しむような思考と考察のプロセスを経て、
新たな住空間をつくりあげる
プロジェクトをスタートさせました。